核融合発電とデータセンターの電力問題
MicrosoftやGoogleが核融合発電スタートアップと電力購入契約を結ぶなど、AIデータセンターの膨大な電力需要を背景に核融合発電への期待が高まっています。仕組みと現状を解説します。
核融合発電とは、水素などの軽い原子核同士を融合させて重い原子核に変える際に放出される莫大なエネルギーを利用する発電方式です。原子核を「分裂」させる従来の原子力発電(核分裂)とは逆の反応で、高レベル放射性廃棄物が出にくく、反応条件が崩れると核融合反応自体が止まってしまうためメルトダウンのような暴走のリスクが原理的に低いとされています。燃料であるわずか1グラムの重水素・三重水素から、石油数トン分に相当するエネルギーを取り出せるとも言われる、燃料効率の高さも特徴です。
実現方式は大きく2つに分かれます。一つは「磁場閉じ込め方式」で、ドーナツ状の容器内にプラズマ化した燃料を強力な磁場で閉じ込め、長時間かけて核融合が起こる温度・密度まで高めていく方式です(代表例が「トカマク型」)。もう一つは「慣性閉じ込め方式」で、レーザー光線などを燃料の塊に照射して瞬間的に圧縮し、核融合反応を起こす方式です。2022年には米ローレンス・リバモア国立研究所が、慣性閉じ込め方式で投入エネルギーを上回る出力を得る「核融合点火」に世界で初めて成功したと発表し、大きな注目を集めました。
核融合発電がAIデータセンターの文脈で急に注目されるようになった理由は、電力需要の急拡大です。生成AIの学習・推論に使われるGPUサーバーは消費電力が非常に大きく、データセンター向けの電力需要が既存の電力網の増強ペースを上回りかねない状況になっています。太陽光・風力は天候や時間帯に左右され、原子力発電(核分裂)は新設に長い期間と地域の合意形成が必要なため、大手IT企業は「安定的かつ大規模に電力を確保できる次世代の選択肢」として、まだ実用化前の核融合発電に先回りして投資・契約を行う動きを強めています。
具体的な動きとして、Microsoftは核融合スタートアップHelion Energyと、2028年までに50MW分の核融合発電による電力を米ワシントン州のデータセンター向けに購入する契約を締結しました。世界初とされる核融合電力の購入契約で、Helionは同州に建設中の実証プラント「Orion」を稼働させる計画です。Googleも核融合スタートアップCommonwealth Fusion Systemsと契約し、同社が米バージニア州に計画する発電所「ARC」から200MW(将来的に同発電所全体で400MW)分の電力を購入する予定です。OpenAIも同様に核融合発電事業者との電力調達について協議しているとされています。
日本国内でも、プラント設計・主要機器開発を手がける京都フュージョニアリングや、ヘリカル型と呼ばれる方式の実用化を目指すHelical Fusionなど、2030年代の実用発電を掲げるスタートアップが登場しています。京都フュージョニアリングは2025年9月に約93.8億円の資金調達を実施し、Helical Fusionは同年10月に実証機の建設に着手しています。
ただし2026年時点で、核融合発電はいずれも研究・実証段階にあり、商用の電力網やデータセンターに実際に電力を供給しているプラントはまだ存在しません。上記の企業間契約も、将来建設される予定のプラントを前提とした「先物」的な取り組みであり、技術的な実用化時期には専門家の間でも見方が分かれています。このサイトが掲載する国内のデータセンターは、あくまで現時点で公式に確認できる電力源・稼働状況にもとづくものですが、今後の電力調達のあり方を理解する背景知識として紹介しています。
最終更新日: 2026-08-03